口腔ケアと認知症

母が脳梗塞の治療で病院の4人部屋に入院していた時でしたが、母を除いて全員入れ歯を使用していたのです。

看護師に聞くと、80歳を過ぎて入れ歯を使用していないのは、非常に少ないと言われましたが、実は父も入れ歯が入っていないので、それほど珍しいこととは思っていなかったのですが、そうでもないことがわかりました。

私も以前は「歯磨きは脳を刺激する」程度の情報しか持っていませんでしたが、意外や意外!歯と認知症の関係には驚く事実があるのです。更に認知症だけでなく介護全般に影響していくようです。

なぜ、両親とも入れ歯ではないのか?、父の話しを交えなが口腔ケアの重要性をご紹介していきます。

自分の歯が多いと認知症になりにくい?

1989年に厚生省(現厚生労働省)が掲げた「8020運動」(はちまるにいまる運動と読みます)があります。80歳になっても自分の歯を20本以上残そうという運動です。生涯、充実した食生活を続けられることが目的でした。

しかし充実するのは食生活だけではなさそうです。

専門家の間では常識?

歯の残存数と認知症の関係が研究で明らかになってきております。

東北大学が行った研究で、認知症が認められない人の歯の残存数が平均14.9本に対し、認知症の疑いのある人では9.4本と明らかな差が見られ、さらに、残存数が少ないほど、記憶力や学習能力の機能に関係のある海馬や、意志や思考力の機能に関係のある前頭葉の容量などが少なくなっていた旨の報告がされました。

また、米国にある研究機関で、12年間の追跡により少数歯群(1~9歯)の認知症の危険度が多数歯群(10~20歯)の2.2倍にのぼる結果もでています。

そして歯と歯を支える骨の間になる歯根膜に、物を噛んだ際の刺激を脳に伝え、脳を活性化する働きがあることもわかってきました。

専門家の間で、自分の歯の残存数が多いほど、認知症のリスクが下がる!ということは、既に常識となっているようです。

未だにおせんべいをバリバリ食べる父の丈夫な歯は、頭の機能を陰で支える功労者だったのですね。

入れ歯でもリスクが減る

歯科医の説明によりますと、たとえ自分の歯が抜けてしまっても、入れ歯を使用することで認知症のリスクを減らすことが十分可能なようです。

よく噛むことで脳が活性化し記憶力に関する海馬の細胞が回復することが明らかになってきてます。顎を動かすことで血流が良くなって酸素や栄養が届きやすくなり、またよく噛んで食べ物を味わうことが脳の刺激にもなります。

よく噛めるマウスと噛めないマウスを比較する実験で、よく噛めないマウスにはアルツハイマー型認知症の原因と言われる特殊なたんぱく質が沈着し老人斑が発生することが判明しています。

どうやら、「よく噛む!」という行為がとても重要なようで、歯が抜けてしまっても、入れ歯や他の人工歯をいれて、噛み合わせの調整もちゃんと行い、しっかり噛めるようにして、食事の時には「よく噛む!」を意識すると、認知症の予防に効果が期待できるようです。

また、歯が抜けた状態を放置すると、周辺の健康な歯への負担が増えて大切な自分の歯の寿命を縮めてしまい、結果として認知症のリスクが高まるそうです。

口腔ケアは肺炎の予防にもなる

口腔ケアは、頭の働きを活性化させるだけではないのです。

高齢者がなりやすい病気に誤嚥性肺炎があります。口腔内を清潔に保つことは細菌の繁殖が抑えられ誤嚥性肺炎の予防につながるようです。口腔ケアで口の中が刺激されると、周辺の筋肉や神経の働きが促進され、嚥下機能の維持が保たれることも誤嚥性肺炎の予防につながるようです。

高齢者の死亡率は肺炎がダントツ1位です。介護する側の心配の種です。歯磨きをもっとまじめにやらねばと考えさせられました。

さらに、重度の歯周病菌にかかっている人と、健康な歯周組織の人を比較すると約3倍以上糖尿病が進行しやすいといわれています。歯周病を治療すると血糖値が改善される例もあります。

また、歯周病は心臓病のリスクを高めるといわれており、感染性心内膜炎の約4割は歯周病菌が原因であったり、解剖後の心臓の血管から歯周病菌が発見され、歯周病が原因の心筋梗塞見つかったケースもあるようです。

歯と全身の関係性を、私たちはもっと理解を深めて口腔ケアに取り組む必要性がありそうです。

口腔ケアのポイント

高齢者の口腔ケアは、私たちが自分で行う口腔ケアのようには上手く行きません。具体的に口腔ケアのポイント挙げていきます。

重要なのは日常生活の中のセルフケア

口腔ケアで重要なのは日頃自分や行うケアです。高齢者の場合は仕上げは介助者が行っても、本人の自立を促すためにサポートは最小限にしましょう。

高齢になると口の中が乾燥しやすくなるので、他者の行う歯磨きに違和感を感じる人もいます。無理せず短時間で終わらせましょう。「気持ちいい」と感じることが重要です。

気をつけなきゃいけないのが姿勢です。嚥下機能が弱いと水や唾液が気管に入り、誤嚥性肺炎のリスクが高まるからです。歯磨き中にむせるようなら、やや前かがみで行ってみてください。

≪セルフケアのポイント≫

  • 適切な歯ブラシや歯間清掃用具(フロス等)を選択しすみずみまできれいに清掃する
  • 栄養バランスのとれた食事をよく噛んで食べる
  • 顔面、口腔を良く動かし、摂食・嚥下の為の良好な口腔機能を保つ
  • 定期的に歯科健診を受ける

父に口腔ケアの歴史を聞いてみる

確かに父の頭は冴えてます。そして風も引かずに丈夫です。嚥下機能にも問題がありません。

果たして入れ歯になっていないことが要因かは定かではありませんが、90歳になるのに自分の歯がそろっていることは凄いことです。

父にこれまでの、口腔ケアの取り組みを聞いてみました。

 

歯磨きは1日1回朝だけ!

なんと、これまで歯磨きは1日1回で、それも朝のみだそうです。

私たちの常識からすると、歯にとっては朝よりも寝る前の歯磨きが重要という認識でしたが、父に限ってはそうでもなかったということでしょうか?

私が通う歯医者の歯科衛生士さんに以前お伺いしたの時に、虫歯要望には歯垢を作らせないことが一番だそうですが、歯垢の元であるプラークは、どのタイミングでもよいので1日1回でもしっかり歯磨きができれば、プラーク対策としてはOK!だったのです。

父はとってもきれい好きでした。いつも清潔にしていたのでそれが功を奏していたのでしょうか、歯磨きは子供のころから毎朝欠かしたことが無かったそうです。

年齢からすると、父の世代は歯磨きの指導がそれほど盛んだったとも思えない中で、父は自発的に歯磨きを欠かさなかったようで、歯磨きの大切さを意識はしていなかったが、習慣として行っていたそうです。

 

虫歯かな?と思ったら歯医者へ行く

父はグルメとまでは行きませんが、食べることが好きで、食事にはこだわっていました。

だからなのでしょうか、虫歯かな?と思ったら放置せずに歯医者へ行っていたようです。歯が痛むとか違和感があるのが好きじゃないと申しております。

話を聞いていると、歯医者に行く頻度は私よりマメかもしれないと思いました。

酷くならないうちに、きちんとケアする!これが自分の歯が生涯現役でいられる一番の秘訣のような気がします。

高齢になった今でも、定期的に歯医者に通っています。デイサービスの歯科検診で毎回褒められるようで、「きれいな歯をしていますね~」と言われるんだよーと、得意げに語ってくれました。

まとめ

今でも父は、キレイ好きには変わりませんが、以前よりは意識が向きにくくなりました。

最近は、歯磨きも忘れることがあります。

しかし、訪問リハビリやデイサービスに出かかる時は、以前と同じように欠かさず歯磨きを行っています。

口腔ケアというよりも、父にとっての歯磨きはエチケットのようです。人との関りは、脳への刺激だけではなく、歯のためにもなるようです。

高齢者になるとコミュニケーションもかなり減りますが、やはり意識して機会を設けることが、本人の自立と介護者の負担軽減につながるようです。